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1Q84、あるいは勇気について

話題沸騰、売れまくりらしい村上春樹の新作「1Q84」、やっと読み終わりました。

希望、いや勇気に関する物語。

村上春樹さんは、勇気のある作家だ。
元々その作品群は、日本の社会とかブンガクとか、そして日本語そのものからも一定の距離をおくことによって人気を得てきたはずである。物語の発するメッセージというよりは、暗喩的な展開や洒脱なレトリック、「僕」の物語でありながらどこか第三者的な世界観に、みんな魅了されたのだ。
しかし、よく言われるように、海外での生活、阪神大震災、地下鉄サリン事件、9.11、を経てからの作品は、彼なりのスタイルで必死に日本の社会、そして世界へとコミットを始めた。
それが、純粋に作家としての好奇心・向上心からなのか、ある種の責任感に由来するのか、一人の人間また自立した社会人として成長・成熟した結果なのか、いったい何故なのか?はよくわからない。いずれにせよ、人気作家として勇気ある姿勢だと思う。
なにもそんな挑戦をしなくても、書いた作品は飛ぶように売れる状態にあったわけだから。

ともかく、この作品はそんな村上春樹の新しい挑戦の集大成であり、村上春樹の新しいニホンゴにも出会える。
ぼくがすごく好きな初期の作品に「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という短編があるのだが、この「1Q84」は物語の大きな骨組み、いやモチーフと言うべきか、ともかく何かしら共通の要素を持っている。
しかし、ふたつの作品は、あらゆる意味でまったく異なる性格を持ち、最終的に別々の方向を向いている。
そして、そのことが村上春樹さんのデビュー以来の勇気ある歩みを象徴しているように、ぼくには感じられるのです。

「死は生の対極としてではなく、その一部として存在する(「ノルウェイの森」より)」ように、物事の光と影、そして善と悪も、また互いに内包される不可分な存在である。
これまでと同じ主題が提示されるが、その非情な真理に対する姿勢は変化を見せている。
もう、「僕」はただ途方に暮れるだけではない。

彼の、あるいは我々の、勇気は、彼女の、あるいは我々の、「灰色の迷宮」に向けられた銃口に、打ち勝つことが出来るのだろうか?
日本だけですでに100万部を超えたというこの作品の読者は、果たしてどう感じたのだろう。

彼女はこれまでに自分が失ってきたもののために泣いた。
これから自分が失おうとしているもののために泣いた。

「1Q84」 村上春樹 著  より

「1Q84」 村上春樹 著

  • 2009年6月10日 00:48
  • Posted by: かえる

Comments:2

かおるん 2009年6月17日 15:22

こんにちは。以前、ブロッサム・ディアリーの記事にコメントしたかおるんです。丁寧なお返事とCDの紹介をいただいていたのに、そのままにしてしまってすみません。遅ればせながら、ありがとうございました。

この記事を読み、とても近い感覚だったので思わず出てきてしまいました。メッセージ、表現、構成、仕事の手法、いろいろな意味においていつも挑戦している作家ですよね。今回の小説は私はとてもよかったと思うのですが、売れたということばかりがとりあげられ、読者にある種のフィルターがかかってしまったことは残念な気がします。(私のブログにも『1Q84』の記事を書いていますが、サーバーを変えて以来TBに失敗しまくっています。あとでやってみますね)

そういえば私は、ブロッサム・ディアリーも村上春樹に教えてもらったのでした。

かえる 2009年6月17日 22:50

かおるんさん

その節は、ついついアツく語りすぎてしまい、失礼いたしました。

本とか映画とかの話題を取り上げる際、以前は事前にネット上の情報を検索して全体像をなんとなく把握してから書いたりしていたのですが、最近は他の方の感想などは意図的に一切シャットアウトし、まったく個人的に思ったままを記事にすることにしています。ですから、この「1Q84」に関しても、記事をアップした後に初めて他の方のブログをのぞいてみたりしたのですが、なにぶん話題作なので記事数は多いものの、その多くは読後の感想と言うより「売れてるみたいです」といった内容のようでしたね。また、Amazonのレビューなどは、個人的にはかなりのカルチャーショックで、面白かったです。ぼくがちょっと変わってるのかもしれませんが、なかなか近い感覚の方っていないものだなぁ、と思って。
かおるんさんの記事も、興味深く拝見させていただきました。こちらからも、TBさせていただきますね。
それにしても、売れてるからイイ、売れてるからダメ、みたいな先入観での価値判断って、ほんと「やれやれ」って感じがします。

村上春樹さんがブロッサム・ディアリーについて触れていた文章があるんですね。一応、出版されている本はすべて持っているはずなのですが、まったく記憶に残ってませんでした。情報、ありがとうございます!
「Portrait in Jazz」の各章ももちろんそうですが、「意味がなければスイングはない」という本でウィントン・マルサリスとチェット・ベイカーについて書いてある部分が、個人的には「そうそう、そうなんだよ~!!!」とひざを100回くらい叩きたくなる(でも、もちろんぼくはそれを文章で表現することは出来ない)内容で、村上さんの音楽に対する理解と愛情は実に深いなぁと感心してしまいます。
余談ですが、歌舞伎町にある(もしかしたらもうないのかも)ナルシスというジャズ喫茶には、彼がジャズ喫茶を経営していた頃(たぶん作家デビュー前)に寄稿した「ジャズ喫茶のマスターになるためのQ&A」(タイトル、正確じゃないです)という記事が載っている昔の雑誌が置いてあるみたいで、ちょっと読んでみたいなぁと思っています。

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